これはあるスタッフの話です。
昔に購入して、靴箱に入れたままだったお気に入りのスニーカーを久しぶりに履こうとしたところ、ソール(靴底)が一瞬でグシャっと崩れてしまいました。あまりのショックに声すら出すことができず、ソールと共にスタッフも崩れ落ちてしまいました。
これは加水分解(かすいぶんかい)によって起こってしまった悲劇です。そのスニーカーは泣く泣く処分したそうですが、同じような経験をした方もいるのではないでしょうか。
皆さん、靴箱に大切に長年しまいっぱなしのスニーカーはありませんか?
スニーカーのアッパー(表側のパーツ)や、ライニング(内側のパーツ)の表面が剥がれたり、ベトベトと溶けて崩れたりしていたら、それは「加水分解」です。
今回はこのスニーカーの劣化現象について、解説しようと思います。
スニーカーに使われているソールの素材
スニーカーのソール(底材)はブランドやデザインによって多種多様ですが、クッション性を高めたソール部分には主に「EVAスポンジ」や「ポリウレタンスポンジ素材」が使われることが多いです。EVAスポンジやポリウレタンスポンジ素材は1970年代頃から使われており、今も現役のソールクッション材として使われています。
EVAスポンジとは?
EVAとは、Ethylen-Vinyl Acetate (エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)という樹脂の名前の頭文字を取った略称のことです。EVAスポンジは熱などに弱い素材ですが、軽さではポリウレタンスポンジ素材より、EVAスポンジの方が上回ります。非常に軽い素材で耐摩耗性や防滑性、耐久性に劣るため、アウトソールにはあまり使われいません。従って、ゴム底と組み合わせてミッドソールとしての利用が大半です。また、ゴムより軽いので軽快なフットワークが可能な素材です。
ポリウレタンスポンジとは?
ポリウレタンスポンジの一番の特徴はゴムのような伸縮性があることです。元の長さの約6倍の伸縮性を保持する、伸縮性繊維です。軽量で高い弾力性も併せ持っているため、クッション性が高く摩耗に強いという特徴があります。ベトベトになったり崩れたりするのは、ポリウレタンスポンジ素材です。ポリウレタンスポンジ素材の中で、“発砲”ポリウレタンソールが使われている靴があります。発砲ポリウレタンソールは安価で成形しやすく、クッション性が高くて摩耗に強いという特徴があります。
ポリウレタンスポンジの欠点
ソール材として良い特徴をたくさん持つポリウレタンスポンジ素材ですが、欠点もあります。それは加水分解による劣化です。加水分解とは化学的反応のことで、ポリウレタンが水分に反応し、分解生成物が得られる反応のことを指します。H2O(水分子)がポリウレタン上でH(プロトン成分)とOH(水酸化物成分)に分割し、取り込まれることで起こる現象で、簡単に言えば“劣化”です。製品が出来た瞬間から、見えないながらも劣化が始まるのです。空中の窒素、紫外線、微生物、空気に含まれる水分で加水分解していきます。性質的に経年劣化が避けられず、寿命は製造から約2〜3年程度だと言われています。
加水分解を予防して、大事な靴を守る4つの対策
スタッフのスニーカーは靴箱に閉まって2年程でしたが、この空中の水分による加水分解で劣化につながったと思われます。ポリウレタンソールの劣化は避けられませんが、出来るだけ長く状態を保ちたいと考えますよね。ただ、加水分解の防止はなかなか難しいことです。なぜなら、空気中の水分と反応するため、放置しておくだけでどんどん劣化していってしまうからです。おおげさに言ってしまえば、製造したその瞬間から劣化が始まっているんです。そこで、加水分解防止策として普段から心がけておきたい、4つのポイントを紹介します。
前編はここまで。
後編では加水分解防止策の具体的な方法を紹介していきます。合わせてご覧ください。